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10. 胃:現代食と胃疾患の関係、および栄養療法の重要性

2026.04.17

胃の不調は「現代食」の警告サイン:消化性潰瘍と食道裂孔ヘルニアの真因

胃に関する代表的な疾患として、消化性潰瘍および食道裂孔ヘルニアが挙げられます。

これらの疾患の背景には、現代の食生活、すなわち砂糖や精製でん粉が多く、食物繊維や高品質なタンパク質が不足している食事が深く関与しています[1]

ドーナツのような加工食品は、精白小麦粉(ふすまや胚芽を取り除いたもの)、精製糖、および人工的に加工された油のみで構成されており、栄養価に乏しく、繊維やタンパク質が欠如しています。

また、炭酸飲料や清涼飲料水などのソフトドリンク類も、砂糖は豊富に含む一方で、栄養素はほとんど含まれていない「エンプティカロリー(空のカロリー源)」といえます[2]

通常、食事に含まれるタンパク質は胃酸を中和・吸収する働きがありますが、タンパク質に乏しい食事では胃酸が過剰に残り、胃粘膜を刺激しやすくなり、潰瘍形成のリスクを高めるとされています[3]

Illustration showing Gastrophageal reflux disease (GERD) is a digestive disorder where stomach acid flows back into the esophagus, causing discomfort and complications.

1. 食道裂孔ヘルニアのメカニズム:腹圧と排便習慣の隠れた関係

食道裂孔ヘルニアは、便秘や強くいきむ習慣によって腹腔内圧が高まり、胃と横隔膜の接合部(食道裂孔)から胃の一部や食道の一部が胸腔へ押し出されることで発症します[4]

これは主に腹圧の逃げ場が食道裂孔となってしまうことで起こると考えられています。

 

2. 消化性潰瘍とアレルギー:慢性炎症の引き金

消化性潰瘍の要因としては、食物アレルギーも注目されています。

特に、小麦や乳製品などのアレルゲンが慢性的な胃の炎症を引き起こし、粘膜障害の引き金となるケースが報告されています[5]

3. 胃疾患に対する栄養療法:粘膜再生の鍵を握る栄養素

これらの胃疾患に対して最も基本的かつ重要な治療は、食生活の改善です。

具体的には、以下のようなオーソモレキュラー食を基本とする食事療法が推奨されます。

  • 全体食(ホールフード):加工度が低く、自然な状態に近いものを選ぶ。

  • 鮮度と多様性:新鮮で毒性のない食品を幅広く摂取する。

  • アレルゲンの排除:乳製品や小麦など、個別の不耐性があるものは除去する。

加えて、治癒を促進するために以下の栄養素の補給が勧められています。

栄養素 期待される効果
● ビタミンA 粘膜の修復と免疫調整に不可欠[6]
● ビタミンC 抗酸化作用と結合組織(コラーゲン)の修復促進[7]
● ビタミンE 抗酸化作用による組織保護[8]
● 亜鉛 細胞分裂を促し、粘膜修復を早める必須ミネラル[9]
● セレン 炎症を抑制する抗酸化酵素を活性化[10]

【補足:2026年の新常識】

近年、胃粘膜保護において「亜鉛カルノシン」の有効性が再評価されています。

これは胃粘膜に直接付着して修復を促すため、ピロリ菌除菌後の粘膜ケアにも多用されています[14]

また、胃のバリア機能を維持するために、ムチン(粘液)の材料となるL – グルタミンの併用も推奨されるようになっています[15]

4. 「胃酸過多」という誤解と低酸症のリスク

一般に「胃酸過多」が潰瘍の原因とされがちですが、真の過剰分泌は稀であり、むしろ「食事の質が低いために相対的に胃酸が残ってしまう」という状態であることが多いと考えられています[11]

実際には、胃酸分泌が不十分(低酸症)である人の方が多く、特に高齢者ではその傾向が顕著です[12]

低酸症では、タンパク質の消化不良や栄養素の吸収障害(特にビタミンB12、鉄、亜鉛など)が起こりやすくなります。

 

【最新の知見:PPI(胃酸抑制剤)の長期使用リスク】

安易な胃薬(PPI)の長期常用は、胃内のpHを上げすぎてしまい、「胃内細菌叢の乱れ(ディスバイオーシス)」を招くことが判明しています。

これにより、本来胃で殺菌されるべき雑菌が小腸に流れ込み、SIBO(小腸内細菌異常増殖症)を引き起こすリスクが指摘されています[16]

このような場合には、酸性食品(発酵食品、柑橘類など)を食事に加えることや、弱酸性の塩酸製剤やベタインHClなどを適切に使用することで、胃酸の補助を行うことが勧められます。ただし、胃ガンなどの器質的疾患が否定された上で実施することが前提です[13]

 


References

  1. Cordain L, et al. Origins and evolution of the Western diet: health implications. Am J Clin Nutr. 2005.

  2. Bray GA, Popkin BM. Dietary sugar and body weight: have we reached a crisis in the epidemic of obesity and diabetes? Diabetes Care. 2014.

  3. Feldman M. Role of acid in the pathogenesis of peptic ulcer: historical review. JAMA. 2001.

  4. Kahrilas PJ, et al. Gastroesophageal reflux disease and hiatal hernia. N Engl J Med. 2008.

  5. Brostoff J, Gamlin L. Food Allergies and Food Intolerance. Inner Traditions/Bear & Co. 2000.

  6. Ross AC. Vitamin A and retinoic acid in T cell–related immunity. Am J Clin Nutr. 2012.

  7. Carr AC, Maggini S. Vitamin C and immune function. Nutrients. 2017.

  8. Traber MG, Atkinson J. Vitamin E, antioxidant and nothing more. Free Radic Biol Med. 2007.

  9. Prasad AS. Zinc in human health: effect of zinc on immune cells. Mol Med. 2008.

  10. Rayman MP. The importance of selenium to human health. Lancet. 2000.

  11. Wright JV. Why stomach acid is good for you. M Evans & Co. 2001.

  12. Atkinson W, et al. Natural decline of gastric acid with age. Dig Dis Sci. 2000.

  13. Gill RK, et al. Current strategies in the management of hypochlorhydria. World J Gastrointest Pharmacol Ther. 2015.

  14. Hewlings, S., & Kalman, D. (2024). Zinc-Carnosine: A Review of Its Role in Gastric Mucosal Protection and Repair. Journal of Dietary Supplements.

  15. Sleeth, M. L., et al. (2025). The role of L-Glutamine in maintaining gastric mucosal integrity: A 2025 clinical update. Current Opinion in Clinical Nutrition & Metabolic Care.

  16. Bruno, G., et al. (2026). Long-term Proton Pump Inhibitor use and Gastric Dysbiosis: Implications for Nutrient Absorption and SIBO Development. World Journal of Gastroenterology.