7. 酵素の働きと栄養素の関係 ― ミネラルの存在なくして酵素は機能しない
2026.05.22
酵素は医療や産業の要であると同時に、体内でも生命活動の基盤を支える分子です。
しかし、これらの酵素が正常に機能するには、補酵素(coenzyme)や補因子(cofactor)と呼ばれる栄養素の存在が欠かせません。
なかでも、マグネシウム(Mg)は、代表的な補因子として際立った役割を担っています。
マグネシウムは、600種類以上の酵素反応に関与することが確認されており、ATP(アデノシン三リン酸)を活性化するにはマグネシウムとの複合体形成が必須です[36]。
さらに、2012年の系統的研究では、ヒトの細胞内で構造的・機能的にマグネシウムが必要とされる3751種のタンパク質が特定されており、その重要性は代謝・エネルギー産生・DNA修復・細胞分裂など多岐にわたるとされています [37]。
したがって、マグネシウムが不足すると、酵素反応が十分に進まず、栄養素の代謝や活用が阻害され、慢性的な疲労、免疫低下、代謝異常などの原因となりえます[38]。
これは、どれほど良質な栄養を摂取しても、酵素とその活性を支えるミネラルが不足していては、身体がそれを利用できないことを意味しています。
研究者の多くが、体内で最も重要なミネラルはマグネシウムだとする理由なのでしょう。

8. 進化と食物酵素の自然性 ―― 太古から続く「酵素を摂る食生活」
酵素の生理的意義を理解するうえで、人類の進化史に目を向けることは極めて有益です。
原始時代、人類の祖先は火を発見する以前、食物を調理せず生で摂取する生活を営んでいました。
動物の肉、内臓、魚介、植物の根・葉・果実など、すべての食物はそのままの自然な形で摂取されていたため、そこに含まれる酵素も、自然に体内に取り込まれていたのです [39・40]。
この時代の人類の生理的プロセスは、自然食に含まれるビタミンや酵素、そしてそれらと連動するホルモン機構と高度に調和しており、現代よりも外因性酵素(食物酵素)を豊富に取り込んでいたと考えられます [41]。
実際、ビタミン・酵素・ホルモンはそれぞれ独立した栄養素ではありますが、代謝や免疫、内分泌系のレベルで相互作用を持つことが数多くの研究から明らかになっています。
これらのいずれかが不足すれば、体内の恒常性が崩れ、生理機能の低下や疾患の引き金となる可能性があるのです [42]。

9. 酵素は栄養か?――進化的合理性と現代科学のはざまで
酵素はビタミンと同様に、生のままの動植物のすべての細胞に含まれている基本的な構成分子です。
したがって、野生動物が食物酵素を自然に摂取しているという事実は、酵素が本来的に「栄養の一部」であることを示しています。
とくに野生動物は、調理された食物を一切摂らないにもかかわらず、腸内酵素に依存するだけでなく、食物酵素も消化の一部を担っているとする研究も存在します [43]。
こうした事実に基づけば、「食物酵素は栄養にとって本質的ではない」とする立場は、進化的事実を否定する立場に立たざるをえなくなるでしょう。
科学的な議論において何かを「不要」と断定するには、その不在でも完全な生理的機能が成立することを証明する責任が求められます。
ところが、酵素が生命活動に一切関与してこなかったとする証拠は存在していません。
むしろ、長きにわたって人類は、食物を通じて外因性酵素の恩恵を受けてきたことの方が、歴史的にも生理学的にも自然な前提だといえるでしょう [44]。
次回予告
【Column】酵素 ― 生命の反応をつなぐ〝静かな触媒〞の現在地
2026.05.31配信予定

References
36. Wolf FI, Cittadini A. “Magnesium in cell proliferation and differentiation.” Front Biosci. 1999;4:D607–D617.
37. Günther T et al. “Magnesium and cellular function: a review.” Magnes Res. 2012;25(1):27–34.
38. Gröber U et al. “Magnesium in prevention and therapy.” Nutrients. 2015;7(9):8199–8226.
39. Wrangham R. Catching Fire: How Cooking Made Us Human. Basic Books; 2009.
40. Cordain L. “Origins and evolution of the Western diet: health implications for the 21st century.” Am J Clin Nutr. 2005;81(2):341–354.
41. Milton K. “A hypothesis to explain the role of meat-eating in human evolution.” Evol Anthropol. 1999;8(1):11–21.
42. Ames BN. “DNA damage from micronutrient deficiencies is likely to be a major cause of cancer.” Mutat Res. 2001;475(1-2):7–20.
43. Howell E. Enzyme Nutrition. Avery Publishing; 1985.
44. Lee R, DeVore I (Eds). Man the Hunter. Aldine; 1968.