VOL. 8:酵素・1秒で世界を変える力 —— 酵素が導く代謝と修復の科学
2026.06.19
16. 酵素の外因的供給と内因的消耗の関係
生の植物性食品のみを主食としている草食動物の膵臓は、体重比で比較すると人間の膵臓の半分以下と非常に小さく、唾液腺の発達も乏しいことが知られています[60]。
しかし、彼らの主な摂取源はセルロースなどの複雑な炭水化物であり、理論上はこれらの消化のために膵臓や唾液腺から大量の消化酵素を分泌する必要があるはずです。
それにもかかわらず、草食動物の消化器系はそれほど活発ではなく、器官のサイズも小さいままです。
このことは、外因的に摂取された「食物酵素(food enzymes)」が、草食動物の消化活動を大きく補っている可能性を示唆しています [61・62]。

一方、代謝活動と酵素の体内動態についての研究も重要な示唆を与えています。
代謝が高まると、血中酵素レベルが上昇し、同時に尿中への酵素排出も増加する傾向が報告されています[63]。
代謝とはすなわち、体内での酵素反応の総体であると考えると、尿中の酵素は「使用済み酵素(spent enzymes)」とみなすことができ、これは正常な代謝過程の副産物ともいえます。
しかし、この酵素の消費増加は、寿命の短縮とも相関することが示されています。
たとえば、高温環境下で飼育された実験動物や、激しい運動を行った個体、あるいは過剰な摂食状態に置かれた動物では、いずれも尿中の酵素排出が顕著に増加し、それに伴って寿命が短くなる傾向が観察されています [64・65]。
以下のような条件は、血中酵素濃度の上昇および尿中排出量の増加を引き起こすことが知られています。
• 筋肉運動 [66]
• 発熱 [67]
• 食物摂取量の増加 [68]
• 妊娠 [69]
これらの現象は、酵素の消耗と回復のバランスが健康に直結する可能性を示しています。

酵素の不足状態に対し、「膵臓の機能が低下しているからだ」といった単純な説明がなされることもありますが、実際には、食物酵素の摂取が少なく、膵臓に過度な負担がかかっている状態では、どれほど膵臓が活性を高めたとしても、体液中の酵素を十分に補うのは困難であると考えられます [70]。
また、酵素は温度によってその活性が変化するという特徴を持っており、一般的に体温より高い温度(例:40℃)では、酵素反応はより速く進行します。
これは、発熱が感染症への自然免疫反応の一部として機能している証左ともなります [71]。
実際、発熱時には病原菌の活動が抑制されると同時に、免疫細胞による酵素的な攻撃も活性化されるという観察結果が得られています[72]。
白血球(leukocytes)は、体内のどの細胞よりも多くの酵素を有しており、これによって細菌の貪食・分解・殺菌などの役割を果たしています[73]。

17. 食物酵素の意義と体内酵素動態に関する再検討
これまでの多くの研究が示しているにもかかわらず、「食物中の酵素は生理的に重要ではない」と考えることは、科学的な根拠を無視した非論理的な立場であると言わざるを得ません。
実際、生の食物に含まれる酵素(食物酵素:food enzymes)は、咀嚼によって細胞膜が破壊された直後から活性化し、自らの成分分解を開始します[74]。
これは、消化プロセスが膵臓や小腸に届く以前、すなわち口腔内や胃内の段階で、すでに酵素的分解が進行していることを意味します。
したがって、食物酵素にはまったく価値がないとする見解は、経験的にも理論的にも成立しません。
とくに生食や発酵食品を含む伝統的食文化においては、体外由来の酵素が消化を助けているとする見方が多くの観察事実と一致します [75]。
さらに興味深いのは、動物実験の結果です。
膵臓を外科的に完全摘出した個体においても、一定期間は血中の酵素濃度が正常に保たれるという報告があります[76]。
また、ヒトにおいても、膵臓が健常であっても、極端に活動性の低い状態にあると血中酵素濃度が著しく低下することがあります[77]。

このような現象は、「体の各組織が酵素の一時的な貯蔵所として機能している」という仮説を導くものであり、代謝や酵素動態に関する理解を拡張させる重要な論点となります。
この仮説によれば、膵臓や唾液腺などの分泌器官が酵素の唯一の供給源ではなく、筋肉や肝臓、腎臓、あるいは白血球などの細胞群が必要に応じて酵素を放出・使用・再利用している可能性が示唆されます[78]。
それゆえ、体内酵素レベルの調節には、外因的酵素の供給(食物酵素)と内因的な貯蔵・利用との相互作用が深く関与していると考えられます。
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References
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