VOL. 10:酵素・1秒で世界を変える力 —— 酵素が導く代謝と修復の科学
2026.07.03
19. 酵素の加齢変化と環境要因
体内における酵素の量や活性は、年齢とともに大きく変化します。
たとえば、人間の唾液中に含まれるアミラーゼ(salivary amylase)の量は、平均して25歳の若者では81歳の高齢者の約30倍にもなることが報告されています[84]。
また、尿中に排泄されるアミラーゼ量も、加齢とともに有意に低下することが示されており、これは体内酵素の総量および代謝活性の低下を反映していると考えられます [85]。

温度環境も酵素の活性に大きな影響を与えます。
たとえば、カブトムシ(beetle)を摂氏48度(華氏118度)の異常高温下に置いた実験では、当初は活発に動いていた個体も、時間の経過とともに活力を失い、最終的には活動を停止しました。
このとき、1時間ごとに全身の酵素量を測定すると、明らかに酵素量が時間とともに減少していたのです [86]。
この現象は、試験管内の酵素と基質(substrate)を用いた実験においても再現されており、温度が上昇すると酵素反応の速度は加速するものの、酵素自体の分解や失活も促進されることが確認されています。
一方で、低温下では酵素の反応速度は緩やかになりますが、その分、酵素の安定性は高く保たれます[87]。
このことから、生体内の反応も試験管内の化学反応と同様の性質を持っており、酵素の活性と生命活動とは切り離せない密接な関係にあると結論づけることができます。

20. 栄養状態の改善と健康のパラドックス
近年では、児童や学生の身長が伸びていることが「栄養状態の改善の成果」として肯定的に評価されていますが、一部の文献ではこの解釈に対して懐疑的な見解も示されています。
ある学童調査では、体格の良さと健康状態とのあいだに、むしろ反比例の関係があることが示唆されており、必ずしも「体が大きい=健康である」とは限らない可能性が指摘されています [88]。
また、高齢者の身体組織と、病気で死亡した若年者の身体組織に含まれるミネラル(例:カルシウム、マグネシウム、亜鉛など)を比較した研究では、病中に生じるミネラル変化の傾向が、加齢に伴う変化と非常によく似ていることが明らかにされています[89]。
このことは、病気によって酵素代謝が阻害された状態と、加齢による代謝能力の低下が共通のメカニズムを持つことを示唆しています。

21. 長寿神話の再考と酵素消費の増加
一般には「現代は寿命が延びている」と考えられがちですが、実際には必ずしもすべての年齢層でそうとは限りません。
たとえば、70歳を迎えた人が90歳まで生きる確率は、40年前に比べてむしろ低下しているというデータも存在します [90]。
その背景には、現代人の生活のスピードが速まり、酵素の消費量が増加していること、さらに、食生活の変化により食物酵素の摂取量が減少していることが影響している可能性があります。
加工食品の多用や加熱調理の常態化により、体外からの酵素供給が乏しくなり、その結果として体内の酵素ポテンシャルを過剰に使い続ける生活様式が寿命の制限要因となっていると考えられます [84・86・90]。

Reference
84. Howell, E. Enzyme Nutrition: The Food Enzyme Concept. Avery Publishing Group, 1985.
85. Lott, J.A., & Turner, K. “Evaluation of Amylase Methods with Special Emphasis on Clinical Significance.” Clinical Chemistry, vol. 24, no. 4, 1978, pp. 556–564.
86. Walford, R.L., Harris, S.B., & Weindruch, R. “Caloric Restriction and Aging in Mice.” Scientific American, vol. 257, no. 2, 1987, pp. 46–52.
87. Nelson, D.L., & Cox, M.M. Lehninger Principles of Biochemistry. 6th ed., W.H. Freeman, 2013.
88. Tanner, J.M. “Growth and Health in Children: A Biocultural Perspective.” Acta Paediatrica, vol. 81, s379, 1992, pp. 67–75.
89. Schroeder, H.A. “Losses of Trace Elements and Electrolytes from Foods During Processing.” Journal of the American Dietetic Association, vol. 56, 1970, pp. 210–225.
90. Wilmoth, J.R., & Horiuchi, S. “Rectangularization Revisited: Variability of Age at Death Within Human Populations.” Demography, vol. 36, no. 4, 1999, pp. 475–495.